地道な努力でご当地フードに 佐賀関産素材一筋の加工品作り
関アジ・関サバで有名な大分県大分市佐賀関地区に、地元で採れる素材を使った加工品の製造・販売を精力的に行っている女性グループがあります。
それが、代表の都 紀三子さんを中心に活動する「佐賀関加工グループ」です。
地域特産の粘る海藻クロメを商品化し認知度アップに大きく貢献した都代表に、これまでの長年の活動や全国にファンを持つ商品作りの秘訣などをお伺いしました。
クロメを地元の特産品に、一村一品運動への取組み
佐賀関加工グループは昭和40年代初期に、佐賀関の室生(むろ)地域の婦人部メンバーで構成する生活改善グループとして発足。当初は地域で採れる食材を自分たちで加工・消費していこうと、家庭向けのみかんジャムや、ひじきの加工品を作っていました。
その後は、佐賀関地域でだけ食べられていた粘る海藻のクロメを使った特産品作りを開始。クロメは強い粘りと旨味があり栄養価も高い事から、佐賀関地域では古くから各家庭で醤油漬けしたものを保存食にしており、それを商品化する事を思いつきます。
しかしそのまま商品化するには、保存性を高めるための塩分が多すぎ、減塩が推進され始めた時代に不向きでした。そのため保存性は保ちつつ塩分を減らした商品を試作しては、お客さんから品質について厳しい意見を頂く事を繰り返し、5年にわたる改良の末に商品を作り上げました。
また、1980年からは大分県で行われた地域振興事業の一村一品運動に一期生で参加。地元の素材を生かした特産品作りを本格化し、クロメを使った商品や甘夏みかんの栽培・商品作りにも力を入れました。
改良を重ね作り上げた「佐賀関くろめ醤油味付」は、発売から50年以上経った今も多くのファンを持つ人気商品。
佐賀関漁港から仕入れたばかりのクロメ。棒状に巻いてあるのが佐賀関クロメの特徴。
クロメは仕入れてすぐ新鮮なうちに、野菜用カット機械を使用して細く切る。
粘りがあるクロメは切りづらく手作業では時間がかかっていたが、機械を導入した今は10分の1ほどの時間で済むようになった。
カットしたクロメの天日干し風景。潮風と天日に当て水分を飛ばし、美味しくなる。
地道な販売努力で人気のご当地フードに
商品が完成した後はクロメの認知度向上と販路拡大のために、大分の百貨店などで実演販売を行いました。都代表をはじめグループのメンバーが売り場に直接立ってクロメの食べ方を伝え、時にクロメを刻んで販売するなど地道な販促活動を35年間にわたって続けたそうです。その尽力の成果は大きく、クロメの認知度は上がり今では人気のご当地フードになりました。
佐賀関加工グループではその後、佐賀関産クロメを使った様々な商品を開発・販売し、現在は「大分市ブランド認証」に多くの商品が選ばれる大分市を代表する特産品となっています。
人気となったクロメですが、佐賀関地域ではここ数年の温暖化による海水温の上昇やクロメ漁師の高齢化で相次ぐ廃業によって、収穫量が年々減少していると言います。そんな中、需要が増えた事でクロメの価格は高騰しているそうで、今後は仕入れが容易に行かなくなると予想されています。
佐賀関産以外の安いクロメを使って仕入価格を抑えている企業もあるそうですが、都代表は「これからも佐賀関の高島周辺で採れるクロメだけを使っていく」と断言します。潮流が速く水が綺麗な佐賀関の高島周辺で採れるクロメは、柔らかく渋みが少ないため品質が良いものになり、その格別の美味しさは食べれば違いがはっきり分かる程だそうです。
長年の商品開発と実演販売で、お客様の声を直接聞き作り上げた自社の商品に自信を持っているからこそ、原料への並々ならぬこだわりが表れているのだと感じました。
大分市の地域資源を主原料にした魅力ある加工品にのみ与えられる「大分市ブランド認証」に多くの商品が選ばれている。
クロメの認知度向上に貢献された都 紀三子代表。現在も新商品開発を担当し、毎日作業を行っている。
良質なクロメが採れる佐賀関の高島周辺の海域。佐賀関と佐田岬(愛媛県)の間に位置しているため潮の流れが速く、海流に揉まれながら成長したクロメは柔らかく渋みが少ないものになるという。
グループ継続の秘訣は、繋がりを大切にする販売戦略
佐賀関加工グループと同じ一村一品運動の一期生には当初60団体ほどの参加がありましたが、現在は3団体しか残っていないそうです。佐賀関加工グループが今日まで活動を続けられているのは販売戦略にあると都代表は言います。
「新商品を開発する時は、始めに売り先を考えてから作るようにしている。商品を作っても売る場所がなければ困るから、まず先に馴染みの取引先に『今度こんな商品を作ろうと思うけど売ってくれる?』と事前に交渉して、了承を貰ってから商品開発をするようにしている。皆さん長い付き合いの取引先だから、頑張って売ってくれて感謝している」
創業当初より新商品の開発は都代表が担当していて、開発作業中は寝ずに作業をしてしまうほど物作りが好きな事に加えて、一村一品運動の活動時に得た専門家のアドバイスや大分県農水加工総合指導センターなどで勉強してきた商品開発のノウハウが、美味しく豊富な商品数に繋がっています。
最近は商品数を増やしすぎたと感じる事もあるそうですが、応援してくれる方が沢山いるから喜んでもらえる新商品を作り続けたいと言います。今後も関アジ・関サバ・関タイなど魚を使った商品や、甘夏みかんを使ったお菓子などを考えていると、笑顔で話してくれました。
多くの佐賀関加工グループ製品が並ぶ陳列棚。クロメや佐賀関の魚を使った様々な製品を製造している。(撮影場所:あまべの郷 関さば関あじ館)
本当に良いものを真面目に作り続けていたら必ず結果は出てくる
発足当初のメンバーは都代表を含め全員がみかん栽培と並行して佐賀関加工グループを運営し、休みなく働いていたといいますが、なかなか売上が伸びず次々に辞めていってしまったそうです。それでも諦めることなく活動を続け、一村一品運動への参加に伴って加工場を整備し、安定した取引先が出来た事で販売が軌道に乗った後も、百貨店などでの実演販売を続けていました。
また都代表は忙しい日々の中、様々な施設や専門家を訪ねては加工品づくりの勉強を続け、作業の合間を縫って精力的に多くの新商品を生み出しました。
「とにかく真面目に続けていけば必ず結果が出てくるし、良い商品を作り続けていたらお客様とのご縁も切れない。お世話になった先生方が今でも気にかけてくださるし、応援してくれるお客様が遠方から購入に来てくださって、お会いした事のない人たちがお電話くださり体を気遣ってくれるような繋がりが生まれているのも、佐賀関素材にこだわって良い商品を作り続けて来た結果だと思う。商品を介して多くのお客様との交流が生まれた事が何より嬉しい」と語る都代表。
これからも地元素材を使った新商品の開発に励み、佐賀関の「美味しい」を全国に届けるため活動する佐賀関加工グループから目が離せません。
- 2021年03月10日